第75回 イメージングカフェ  レポート


2019年3月8日(金) 18:30〜20:20、東京工業大学キャンパスイノベーションセンター(田町)にて第75回イメージングカフェを開催しました。今回は山形大学産学連携教授・インクジェット開発センター長であり、日本画像学会企画委員長でもある酒井真理氏から、「CES2019、シリコンバレー視察で見えた最新潮流 〜イノベーションに取り残されないために今するべきこと〜」と題しご講演いただきました。参加者は28名(講師、企画委員含む) でした。また、その後アリスアクアガーデン田町に場所を移しさらに活発な議論を行い、参加者どうしの親睦も深めることができました。

前半は、今回のシリコンバレー視察の目的と視察期間中に開催されていたCES2019のトピックスについてのお話でした。
昨年、山形大学は国が進めるオープンイノベーション機構の公募(8件)の一つとして選定されました。運営費として文科省から5年間で1億5千万円が支給されますが、以降は大学自らが運営費を集める継続的な仕組みづくりが求められています。企業との共同研究費で日本国内1位で75億円を集める東京大学でさえ、海外のハーバード大などと比べると一桁少ないのが実態で、その日本と海外のギャップの分析が今回の視察の目的とのことでした。

まず、産官学の連携の現状と課題が紹介されました。企業トップと共同研究担当者との間における研究成果に対する期待のギャップがあること。また、訪問先のスタートアップを支援するプラグ&プレイ社の様子に絡め、現地のコーディネーターの話として、米国では人と人とが出会って話せることが重要で人脈形成が重要視されるが、日本の大手企業の駐在は5年程度の任期で帰国してしまうため本当の意味での人脈形成ができないとのことや、米国では政府がイノベーションを先導し投資に対する成果(ゲームチェンジ)を納税者に還元するという考えが徹底されており、10年周期のイノベーションを政府がリスクを取って研究段階から支援していること、などが事例を交えて紹介されました。

CES2019は、4500社が出展し18万人が来場。GoogleとAmazonの存在感が非常に大きく、ICT技術が一般化して自動車にも搭載されるようになったことなどから、もはやコンシュマー向けのショウではなくなっているとのことでした。
自動車も中心は自動運転から自動運転車内でのエンターテイメントに移っており、5G通信に関する展示も盛況だったようです。乗物系では空飛ぶ自動車やクルーザーの展示もあり、ディスプレイ関連ではLGの曲面OLEDをタイル的に繋いだトンネルや、不必要な時は巻き取ってしまっておけるOLED-TVや、折り曲げられるフォルダブルスマホ、QLEDやmicroLEDの展示なども紹介されました。IJ関連では芳香剤散布デモや、肌のシミ計測とそのパターンに合わせてインクジェットでシミ隠しするデモ、曲面印刷などが見られ、これで売れるのかと感じるような展示も多いとのことでした。

後半の話題は「イノベーションに取り残されないために今するべきこと」についてでした。
人口とGDPの比で見ると日本は米国やヨーロッパと似ている一方、GDPで日本の3倍の規模の中国は日本の10倍の人口を有することから伸びる余地は大きいものの、10年後の人口構成は急速に日本型に近づくため増加する医療費の圧迫を受け研究開発費は減速するだろうと予想され、一方の移民国家の米国は人口比率は変化せず競争力を維持すると考えれば、将来的に中国と米国のどちらが優勢かの判断は難しい。研究開発の傾向では、米国は軍事・航空分野をベースに「この指止まれ」的な集中投資を行いゲームチェンジを目指しているのに対し、中国は国家主導の半導体・ディスプレイ・ICT分野への追いつき追い越せ的投資を行っている。しかし、追い着いた後は不明確。ヨーロッパはドイツを中心にインダストリー4.0を掲げ製造業への投資が中心。日本は経団連を中心にソサエティ5.0を掲げているが内容は曖昧で主力の自動車と半導体に広く浅く投資し、政府系の金融機関も投資が回収できるか怪しいジャパンディスプレイへの投資を続けている。これは納税者還元を重視する米国では責任を問われかねない。
エコシステムの違いから日本人はお金を使う事を投資と考えないため倹約が美徳とされ、リスク回避のための選択と集中が進んだ結果、国内では経済活動が内向きでケチなマインドで固まってしまっている。これは個人マインドも企業マインドも同じ状況と分析。これからはオープンイノベーションの時代であり、「コストと品質競争」から脱却して「戦略と創発」に取り組む必要があるとの提言がされました。
そのためには資金・人材・知識の流動化が課題であり産学連携のマネージメントができる人材が必要。個人としては終身雇用が主だった時代で考えれば社外はすでに外国であり、学会活動等を通じた異文化交流でコミニュケーション力を鍛えることも重要と強調されていました。
また、70歳までの雇用延長に備えて如何に創造力を維持するかが課題であることから、企業人は40歳台で2〜3年大学に戻っての学び直しする制度の提言もされていました。この制度を導入した企業には法人税減税を行えば、企業にも個人にも大学にも恩恵があるはず…と熱く語られました。これには参加者からも多くの賛同の意見がありました。

単なる視察レポートに留まらず、日本の研究開発のしくみのあり方に対する具体的な施策についてまで考えるよい機会となりました。

記・企画委員 森川 尚(富士ゼロックス)


次回(第76回)は4月19日(金)に開催予定です。詳しくは開催案内をご覧ください。