第77回 イメージングカフェ レポート


    【ご参考】第77回募集案内


2019年5月24日(金)、東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター(田町)にて第77回イメージングカフェを開催しました。講師には、元株式会社リコー 今井 力様をお迎えし、「電子写真プロセス−原理原則とミステリー」のタイトルでお話いただきました。参加者は23名(講師・委員含む) でした。

最初にご経歴と今回のテーマについてお話がありました。1977年に複写機事業部へ転属されて以降は一貫して電子写真プロセスの開発をご担当されており、Se感光体の研究開発を皮切りに、高速機や普及機に搭載する感光体の開発をご担当され、さらに各種商品テーマのプロセス開発マネージャーとなり、その後は電子写真プロセスのモジュール全般を担当する研究開発リーダーとして新規画像エンジンの開発から試作機の課題検討まで、幅広くご活躍されることになりました。

多くのご経験から得た大切なこととして、目標達成や問題解決では、「なにをやってもいいが、原理原則は破らないこと」を自己と若手に対して教示されてきたとのお話がありました。その心は、「先人の知恵を理解して原理原則を大いに利用しているのか?」、「結果オーライでなく、解決のための仮説がきちんと原理原則の理屈に裏付けされていて、次の開発へと受け継がれるものになっているのか?」ということでした。
また、困難な仕事を楽しむための工夫として、実現象と通説の間にギャップがあって悩んでいた検証は、ミステリー推理の楽しみと同じように考えて、逆にストレス解消につなげられるようにしていたというお話もありました。

次に、ご担当された電子写真プロセス開発の経緯をお話しいただきました。1977年のFT7500開発では、当時の高速60copy/min搭載用の有機感光体・乾式2成分現像装置の検討をご担当されました。既に上市していたIBM IIIの機体や特許から技術思想を汲み取り、またSchein(Xerox)やWilliams(IBM)らの論文から現像理論を理解して、試作検証の実験を重ねられたとのことでした。特にScheinの現像モデルでは、線速比・現像方向・現像領域で働く剪断力などの設計パラメータと現像能力の関係の理解と、それらをどのように現像装置の設計に応用したかを解説いただきました。さらに試作後の実験で発生した予期せぬ不具合、すなわち現像キャリア磁気穂の摺動跡ノイズ、感光体表面のテフロンフィルミング、感光体表面のキャリア付着、コピーの地肌汚れなどについて、どのように仮説を立てて実験再現と検証を行い、問題対策に結び付けたのか、学会の技術講習会資料も交えて詳細にお話いただきました。
その後、1988年頃に取り組んだアナログ機械の画質向上のお話がありました。業界でデジタルカラー機や画質向上の競争が始まる時期であり、現在のリコーにおける中高速モノクロ機の標準現像方式を確立した時期でした。今回、当時ご担当された、感光体と現像条件の改良・トナー小径化・現像剤/添加剤の寿命改善などのテーマについて、原理原則に基づいた実験検証の様子と、どのように高画質化に結び付けたのか、詳細にご説明いただきました。

さらに3つの課題解決事例をご紹介いただきました。現像トナー規制部のスリーブ端部現像剤固着問題では、通説の端部圧力に着目した検討から、摩擦熱モデルを用いた現象理解に方針転換して問題を解決されました。また、省エネ定着器用の高応答ハロゲンランプの実装課題のときは、面状発熱体の方が応答性の良いことを論理的に説明して、実用的な設計パラメータを見出したというお話もありました。
AC帯電における感光体長寿命化の検討では、滑剤(ステアリン酸亜鉛)を用いたときの予期せぬ事象(滑剤と磨耗の関係や電荷移動特性の変化など)を一つずつ検証されたとのことでした。

最後に、現在、今井様が関心を持っていることを語っていただきました。転写領域内でトナーと感光体の帯電(逆帯電)を説明するための放電モデルと電荷注入モデルについて、滑剤の影響をどのように考慮すべきなのか。トナー帯電に関して、現像添加剤の影響(動抵抗)はどのように推定するべきか。定着離型モデルで、定着ローラと紙の剥離メカニズムにおけるワックスが果たす機能はどのようなものなのか。何れも、電子写真が複雑な複合技術であるが故に理解の難しい点であり、現役技術者も同じ課題で悩みつづけているのではないでしょうか。
締めくくりの言葉として、緩やかに減衰するオフィスプリント事業の状況を考えると、もはや「電子写真技術を極めよ」と若い技術者に声を大にして言えないのが率直な気持ちであるという、複雑な思いも語られました。しかしながら、しばらくは印刷ニーズも大きな規模を保つであろうし、安心・高信頼、環境負荷低減などの社会的ニーズを求める技術競争も続くと考えられるので、今後も、技術を探求して世に送り出す競争を楽しむ機会はあると考えられているとのことでした。

今回は、電子写真プロセスの技術者にとって避けて通れない原理原則について、かなり専門的な内容まで踏み込んでお話いただきました。一方で、印を“EP”、刷の“”(りっとう)を“IJ“と見立てて印刷を電子写真とインクジェットになぞらえて表現されるなど、随所にユーモアを織り込んだ説明をしていただくことで、難しい内容も親しみやすく聴講することができました。30年前に検討されていた内容を、さらなる高みを目指して現在も検討し続けられているというお話もありました。さらに30年後、我々がどのような技術を扱うことになるのか分かりませんが、原理原則の考え方は変わらず引き継がれているのではないでしょうか。

記・企画委員 近藤 芳昭(コニカミノルタ)  


次回(第78回サマーSP)は7月26日(金)に開催予定です。詳しくは開催案内をご覧ください。