第79回 イメージングカフェ レポート


    【ご参考】第79回募集案内


2019年9月6日(金)、東京工業大学キャンパス・イノベーションセンターにて第79回イメージングカフェを開催しました。今回は『見た! 触れた! 聞いた! ITMA2019 デジタルテキスタイルの最前線』と題し、竹内 節氏(コニカミノルタ株式会社)、酒井 真理氏(山形大学)、名越 応昇氏(三菱製紙株式会社)の3名による鼎談形式での視察レポートを行いました。参加者は21名(講師・委員含む)でした。

前半部分では、竹内氏からITMAの概要及び展示されていたマシン/ヘッド/インクの特徴を、名越氏から昇華転写紙の特徴を、それぞれ展示会の雰囲気を交えながら紹介いただきました。
ITMAは4年に一度欧州で開催される国際繊維機械見本市のことで、「繊維機械のオリンピック」とも呼ばれています。今回はバルセロナの国際展示場で行われ、全体8ホールのうちの1つがプリンティング関連に充てられていたとの事です。他ホールでは紡績、織り、編み、後加工など、繊維産業の上流から下流まで幅広い工程で用いられる機械が展示されており、この業界の現在と今後の全体像にワンストップでアクセスできる展示会となっています。

捺染の世界では未だにアナログ印刷が主流であり、デジタル印刷が使用されている割合は5%程度ですが、年平均成長率は高く今後の発展が見込まれています。展示されていたマシンもアナログ印刷機はほとんど見られず、デジタル印刷機の新機種が続々と登場していたとの事で、ダイレクトシングルパス/ダイレクトスキャン/昇華転写の方式毎に、各メーカーから展示されていたマシンの特徴を詳細に説明していただきました。

ヘッドに関しては現在シェア1位である京セラ製よりも、今回の展示ではFujifilm Dimatix製ヘッドが目立っており、使いこなしが難しいインクとの組み合わせにおいて新たに採用されているケースが増えていたとの事でした。
インクに関しても、出展されていたメーカー毎に、前処理がいらない、洗濯耐性がある、エコである、混紡にプリントできる等のアピールポイントについてご説明いただきました。

前半部分の最後は昇華転写紙についてでした。製紙業界ではインクジェット用紙の生産量が減少傾向にあることから、捺染にも手を広げるメーカーが増えつつあるとの事です。ただし捺染業界では3.2m幅対応が求められ、新たな設備導入の必要性が製紙メーカーにとって参入障壁であることが述べられました。そのような中でも、薄物は転写効率が上がるためインクの使用量を少なくできること、使用後に捨てる紙の量を削減できることから要望が増えているそうです。また、トピックとしてCOLDENHOVE社が顔料インクに対応した転写紙を開発し、色々な物に転写できるメリットを打ち出していたことも紹介されました。

後半部分は、酒井氏が現地で撮影された写真を投影しながらその場で感じられた疑問点を投げかけ、それに対して竹内氏、名越氏が答える形式で進みました。
酒井氏からは、日本企業のプレゼンがほとんどなくヨーロッパ主体の展示会でもあったことから、日本のメーカーはこの業界でビジネスができるのか?との大きな問いかけがあり、それに付随する形で主に以下のような質疑が行われました。

  1. 昇華転写で薄物を使う要望が高まっているとあったが、インク量を減らすことはできても結局紙は捨てる必要がある。環境面でメリットを訴求できるのか?
    紙は作る時に水も使うし、捨てるという面でも大きな訴求はできない。しいて言えば巻取り性が良くなるため操業面でのメリットを打ち出すことはできる。
  2. なぜ展示してあるマシンは人が中に入れたり、一部を引き出してメンテナンスできたりするようなごつい感じになっているのか?デザイン面でこなれていない印象を受けるが。
    操業中に手をかけないといけない部分が多いためある程度は仕方がない。また、アナログ捺染機は設置後40年近く使われることもあるため頑丈でなければならず、今までの延長線上にあるお客様にとっては従来と同様の外観の方が安心される。
  3. 相手側の布地によって、また昇華転写ならば紙質によって品質が大きく変わりそうなので、例えばあるマシンと、特定の布や紙とを組み合わせて売るような新しいビジネスモデルは考えられないのか?
    大部分の人はアナログのまま大量に同じものを作ることを考えており、そのようなデジタル印刷が得意とするビジネスモデルは恐らくあまり好まれない。インクジェットはITMAの中では異端であると言える。
  4. 安いインクをアピールポイントに設定しても、インクの値段よりヘッドのメンテナンスコストの方が高く思えるので、ユーザーはあまり恩恵を受けられないのではないか?
    インクでは儲からず、大量生産の世界には入っていけない。それよりも前処理、後処理をなくす付加価値の方が必要で、その方向に進むべきなのは確かである。

これらの質疑を経て、竹内氏からITMAはビジネスを作る場ではなく装置の見本市であり、アナログの世界を乱さないような空気感があることが伝えられました。また、酒井氏からもこの分野に日本のメーカーが要素技術だけで入っていくのは得策ではなく、サプライチェーン含めたビジネスのあり方を考える必要があるのではないか、との考えが述べられました。

今回は視察者による一方向の報告にとどまらず、別視点での質問が投げかけられることによって、現地に隠れていた今後の課題や方向性についての理解がより深まりました。また、参加者のうちこの分野が専門ではないような方々からも、わかりやすい内容で大いに参考になった、との声が多く聞かれました。

記・企画委員 中井 洋志(リコー)


次回(第80回)は10月25日(金)に開催予定です。詳しくは開催案内をご覧ください。