第88回 イメージングカフェ レポート


  【ご参考】第88回募集案内


2021年5月21日(金)19:00〜20:30、Zoomによるオンラインにて第88回イメージングカフェを開催しました。今回は日本写真学会会長であり、コニカミノルタ科学技術振興財団理事、東京都中小企業振興公社技術連携コーディネーターでもある中野 寧氏をお招きし、『がん診断における組織・細胞のデジタルイメージングへの期待』と題し講演をいただきました。
講演の参加者は27名(講師、企画委員含む)。講演後、Zoomのブレイクアウトセッションを利用した懇親会を開催し、活発な議論で親睦を深めることができました。集合写真

最初にがん治療の現状のお話があり、免疫療法薬剤の進展により治療成績がよい癌が増えてきた一方、すい臓がんを代表とする発見された時点でステージ4と告知されるような難治がんが存在し、未だ人々を苦しめている事が説明されました。難治がんには、自覚症状が出にくく、有望なマーカーがないため早期発見がしにくい事。生検が難しい場所にあり、外科手術で切除が困難であり、また分散しやすく完全な除去が難しいなどの特徴がある事が説明されました。未だにがん治療は、外科手術、放射線治療、抗がん剤治療の3つであり、近年、放射線治療の精度は上がってきたが免疫に対する悪影響があるため、難治がんに対しては抗がん剤治療が選択されるケースが多いとの事です。有効な抗がん剤を見出すために生きた細胞や組織を顕微鏡で見たいというニーズが多い事が説明されました。

続いて最近の抗がん剤の進展についての紹介がありました。がん細胞の増殖シグナルを促すHER2と呼ばれるT細胞表面の受容体タンパクを阻害するハーセプチン(抗HER2抗体)(Roche製)は大変有効であり2000年登場時、脚光を浴びたが、効く人は患者の30%に留まる事、HER2の染色技術(コンパニオン診断)の進展でハーセプチンが効くか効かないかが分るようになってきた事が説明されました。またモノクローナル抗体(抗HER2抗体)の大量生産が可能になった事、2010年には、がん細胞が免疫細胞から逃れるため使うPD-1をブロックする免疫チェックポイント阻害剤(商品名オプジーボ(小野薬品))の実用化、2015年には、がん細胞を増殖させている微小管(チューブリン)を阻害する抗がん剤と、抗HER2抗体を複合化したADC薬(Antibody-Drug Conjugate)が登場しがん治療は大きく発展しつつあるとの説明がありました。特に遺伝子治療の知見は今回のコロナワクチンのスピード開発に応用されているとの事です。

以上のような新薬の開発には、未だに、まず、培養したがん細胞単独で試して(Vitro試験)、次にがん細胞を移植したノックアウトマウスで試した後、人間に効くか試してみる手順(臨床試験)が取られており、死の谷(動物試験とヒト試験の間の谷)を越える新薬は1/20000(製薬工業協会調べ)に留まる事が説明されました。前臨床試験に力を入れて、ヒト試験を予測したいが、実際には、膨大の予算をかけて、数多くの臨床試験に頼るしかないのが現状との事です。がん治療は患者の側からみると診断後、一度始めると6ヶ月やめられず、価格も1000万円から4000万円と高価で、効かなくても時間は戻らない厳しさがあります。画像診断が活躍すべき前臨床からの知見が、治療選択(抗体医薬の選定)や患者層別(その患者に効くかどうかを判定)に繋がることが、ますます重要になってくるとの事です。

がんの確定診断は治療方針の決定に重要で、血液によるマーカー判定、CT・エコー・X線・MRI・PET・内視鏡、CTC/エクソソーム等の早期診断と、ゴールドスタンダード呼ばれる病理検査診断に分かれます。近年、早期診断の分野は大きく進展しておりますが、患部はココだという確定診断は病理検査に頼らざるを得ないそうです。生検した病理組織を観察し診断を下す病理医は、育成に10年かかると言われているそうです。診断技術の支援が遅れている領域です。病理検査は組織を薄くスライスして染色して顕微鏡観察を行うもので、近年の蛍光マルチプレックス染色や、組織中のがん組織の変異遺伝子まで分かるまで発展してきた。しかし、生検は患者にとって痛くて厳しい検査(侵襲性が強い)であり、実際に期待されてきた、蛍光染色もヒト組織には自家蛍光があるため、定性的な検査に留まってしまうとの事です。中野さんが共同研究されている東北大学のグループでは、HSTT(High Sensitive Tissue Testing)と呼ばれる高輝度の複数の蛍光物質を退色しないようにカプセル化した蛍光染色薬を3〜5年かけて開発し、1標的に1粒子のマーカーをつける事で定量的な評価を可能としたとの事です。蛍光体の輝度は量子ドットの約40倍で、従来法で染色した画像と良い相関が得られているそうです。さらにHSTTの利用で、従来の染色観察では陰性判定だけど実は陽性判定を見分けられるようになったのが大きな進展との事です。高感度検出技術に相当します。
さらに最近では、生きたマウスのがん細胞中の微小管が伸長し、増える様子を共焦点蛍光顕微鏡を用いて観察できるようになり、届いた薬の量で細胞の増殖が停止する事も確認でき、薬が届いた、届かないの観察から薬のがん組織への到達量の均一性・不均一性の判断ができるようになってきているそうです。

次の10年は、免疫の働く様子を観察できるようになる事だそうです。現在直径130nmサイズのHSTTを小型化して高解像度を狙う方向もありますが、サイズ効果による立体障害で定量性が出せている面もあるので悩ましいとの事です。一つの細胞を正確精密に診ることと、広く患部組織全体の様子を知る事は、画像化技術としては、相反するする事ではありますが、バイオロジー的には、両方大事との事で、我々の画像分野の解析にも通じる事で大変参考になるお話がうかがうことができました

記・企画委員 森川 尚(富士フイルムビジネスイノベーション)


次回(第89回)は7月21日(水)に開催予定です。詳しくは
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