「10年後、プリンティングってどうなってると思う?」
会議の雑談でこう振られたとき、技術者の方ほど一瞬黙ります。根拠のないことを言いたくないからでしょう。ぼくはあれを、とても誠実な沈黙だと思っています。
だから先に申し上げます。9月16日に開くワークショップで、ぼくは10年後を当てるつもりが、まったくありません。
「これは予測ではない」と言い張った人がいます
1971年、ロイヤル・ダッチ・シェルのピエール・ワックが、石油の未来について複数のシナリオを役員たちに示しました。1バレル2ドルの原油が10ドルまで跳ねうる——そんな話を社内に言って回り、2年後、それは現実になります。備えのあったシェルは、1970年代のうちに業界7位から2位へ上がったと言われています。
大事なのは、ワックが一貫して否定していたことのほうです。「これは予測ではない」。 彼はシナリオを「心のリハーサル」と呼びました。当てるためではなく、当たったときに手が止まらないようにするための予行演習だ、と。
技術者のみなさんには、たぶん説明が要りません。壊れるかどうかを予言するのではなく、壊れ方を並べて、どれが起きても被害が広がらない構造にする。あの発想を事業と技術戦略に対してやるのがシナリオプランニングだと、ぼくは思っています。予測の精度を上げる道具ではなく、予測が外れても壊れない選び方をするための道具です。
2分のミニ版を、ここでやってみませんか
紙とペンがなければ頭の中で結構です。10年後のプリンティングについて、違う世界を2つ置きます。
世界A|刷る対象が変わった世界 紙への出力は縮み続けた。かわりにインクジェットは機能性材料を吐き出す装置として製造ラインに組み込まれ、主な相手はデバイスメーカーになった。
世界B|一枚の重みが増した世界 紙の総量はやはり減った。ただし「わざわざ紙にするもの」だけが残り、一枚あたりの単価と要求品質が跳ね上がった。刷るのは記録のためでなく、意味のためになった。
この2つのどちらが来ても、いまから着手して損はない——そう言えることを1つだけ挙げてみてください。
思いついたなら、それがあなたの「どの未来でも効く打ち手」です。兆しを待たずに今日から手をつけていい一手です。
逆に「これは世界Aじゃないと意味がないな」と手が止まったものは、捨てる案ではなく「何が起きたら動くか」を決めておけばいい案です。この方法でいちばん効くのは、未来を描く工程ではなく、じつはこの仕分けのほうだと思っています。
ひとりで描いた4つは、どれも自分の目で見た未来です
いまのは2つですが、軸を2本立てて4象限にすれば、ひとりでも4つ描けます。ぼく自身、その手順でやってきました。
やっかいなのは数ではありません。そうやって出てきた4つは、4つとも自分の持ち場から見た未来だということです。材料の方の10年後と、ヘッドの方の10年後と、電子ペーパーの方の10年後は、同じ日本語で語られても中身が違います。ひとりで描くかぎり、4つはどれも同じ方向に寄ります。
だから当日は、こちらで4つの未来をご用意し、テーブルを歩いて回り、最後に全員の打ち手を壁に持ち寄り「どの未来からも出たもの」と「1つの未来からしか出なかったもの」に分ける組み立てにしています。
このとき、たまに面白いことが起きます。自分では「うちの分野でしか効かない」と思っていた一手が、別の分野の方の口から、別の未来の話として出てくる。片方でしか効かないはずの手が、じつは3つの未来から出ていた。 当日の効き目は、集まった分野の混ざり具合がそのまま決めると考えています。
第6回 Imaging NEXT サマースペシャル
- 2026年9月16日(水)13:30〜17:30/水道橋・貸会議室内海 301会議室
- 参加費:日本画像学会・日本写真学会・日本印刷学会・画像電子学会の会員 2,000円/それ以外の方 4,000円
- テーマはプリンティング技術に絞っています(範囲を広げるほど、自分の持ち場に引き寄せにくくなるためです)
- お申し込み: https://questant.jp/q/ImagingNEXT_06 (締切 9月14日(月)17:00)
- どなたでもご参加いただけます
4つの未来はこちらでご用意する予定です(上のA・Bは練習台で、当日は別の顔ぶれです)。事前に読み込んでいただく資料は用意していません。手ぶらでお越しください。お持ち帰りいただきたいのは、どの未来でも効く打ち手・自分が見張る兆し・明日から始める第一歩の3つです。
詳細は第6回 imagingNEXT 開催のご案内をご覧ください。
今週の、小さな一歩
さきほど浮かんだ一手を、手帳の隅にメモしておいてください。
そして9月16日、それが4つの未来を通り抜けて生き残るか、確かめにいらしてください。生き残ればあなたの本命、落ちたなら「兆しを見てから動く案」。どちらに転んでも、持ち帰るものはあるはずです。
会場でお会いできたらうれしいです。
※本稿はぼく個人の見解であり、学会の公式見解ではありません。