「第2回 imagingNEXT」連動コラム

伝統がデジタルと出会うとき

〜インクジェットが描き出す“次の日本”〜


はじめに:染める? 描く? そのあいだにあるもの

2025年4月4日、「第2回 imagingNEXT」が開催されます。今回のゲストは、法政大学 国際日本学研究所の岡本慶子さん染織の現場からスタートし、テキスタイルとアパレル商品企画、さらには学術研究までを経験した異色のキャリアの持ち主です。

今回のテーマは「伝統とデジタルの融合による新たな表現」。岡本さんのインタビューを通して、インクジェットプリントと日本の染色文化がどんな未来を描けるのか、一緒に考えていきます。

このイベントは日本画像学会が主催し、どなたでも気軽に参加できる公開イベントです。私は企画委員としてこのプロジェクトに関わっており、岡本さんから直接お話を伺うのをとても楽しみにしています。参加方法は対面とオンラインのハイブリッド形式。全国どこからでもご参加いただけます!

インクジェット技術というと、なんとなく工業製品や量産品のイメージがあるかもしれません。でも実は、それが伝統技術とどう融合していくのか、考え直すにはとても面白い時代に来ているんです。


インクジェットが超えられなかった“壁”とは?

岡本さんが2023年に視察したITMA2023(世界最大の繊維機械展)では、多くの最新機器と技術が展示されていましたが、その場で強く感じたのは「伝える相手が見えていない」という違和感だったそうです。

以下のようなギャップが浮かび上がりました:

  • 技術者とデザイナーが見ているものが違う
    技術者はインクの粒や線の再現度に注目。対して、デザイナーやアパレルの現場では「この生地でどんな服が作れるか」「着たときにどう見えるか」が重要。
  • 「何でもできる」は伝わらない
    多機能性は確かに魅力的。でも、明確な使い道やターゲットがなければ、技術はただの“展示品”になってしまいます。
  • 小ロット対応の“罠”
    インクジェットは「少量から作れる」と言われていますが、実際には前処理や後加工のロット制約があり、3メートルのプリントですら高いハードルがあります。
  • 業界のDX(デジタル変革)が進まない理由
    デジタル化しても、流通や発注の仕組みが旧態依然としたまま。テクノロジーが“孤立”している状態では、本質的な変革は起こりません。
  • 誰が使い、誰が価値を感じるのか?
    展示されているサンプルが、どのユーザーに向けて作られたのか不明瞭。デザイナーやマーチャンダイザーの感性に届く提案が必要です。

インクジェットは、現代の“型染め”になれるのか?

「伝統を守る」と聞くと、つい“変えないこと”が大切だと思ってしまいます。でも、歴史ある技法ほど、その時代ごとに姿を変えながら残ってきたはずです。

岡本さんは、インクジェットを「ただの安価な印刷技術」ではなく、「伝統を次の世代に伝えるための拡張ツール」としてとらえています。

たとえばY’sのウール×ナイロンニット。インクジェットで施されたプリントは、まるで手で染めたような深みと、手描きのような自由さを兼ね備えていました。これが、アナログかデジタルかという話ではなく、“どう感じられるか”が本質なのです。

さらに注目すべきは、これまで高価で手間のかかる特殊な図案が、インクジェットによって“日常的な表現”として再生できる可能性を秘めているという点。つまり、

インクジェットは“使われていない技術”じゃない。まだ“語られていない文化”なんです。


「誰のための技術なのか?」という問いが、未来をつくる

岡本さんの指摘の核心はここにあります。

「この技術、誰に使ってほしいの?」「それは、どんな価値を生むの?」という問い。

それを考えることこそが、イノベーションの原点であり、文化の継承でもあります。

imagingNEXTは、こうした“問い”に立ち返る場所。自分の業界、自分の表現、自分の仕事を、もう一度見つめ直すチャンスです。

しかも今回は、単なる講演ではなく、岡本さんとのインタビュー形式で深掘りしていく構成です。会場では質問の時間も用意されており、現場のリアルな声を交えてディスカッションできる貴重な機会になります。


おわりに:未来を“染める”のは、問いの力かもしれない

インクジェットって、ただの印刷技術じゃないんです。
それは、伝統を未来につなぐための、ことばにならない“問い”のようなもの。

技術と文化、職人とデザイナー、過去と未来ーーそれらをつなぐ方法は、意外と足元にあるのかもしれません。

自分の仕事、自分の技術、自分の場所に問いを投げかけてみたい人へ。
その入口として、imagingNEXTはとてもおすすめです。

岡本さんと一緒に、次の伝統のカタチを考えてみませんか?


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「「第2回 imagingNEXT」連動コラム」への2件のフィードバック

  1. 参加できずにコメントするのも申し訳ないのですが,先日愛知県の有松絞を見学に行って,感じたことを書きます.有松絞は,普段使いの染め物として近隣の農家の農閑期労働力に手間のかかるククリの作業を託して安価でかつ趣のある反物をこしらえることで栄えたのだそうです.今ではククりの作業は中国⇒アジア圏に委託し,そのほかの工程もコストや手間の削減には伝統にとらわれすぎず持続の道を模索しているようです.ひとつには徹底した工程の分業と,もう一つは,志のある作家さんが一人で商品企画からデザイン,ククリ,染め,後加工をこなしてオリジナリティのある作品を仕上げるという道です.伝統産業に携わっている方も決して過去にしがみついているのでなく,現在と未来を見ておられるのだなあ,と感心した次第です.

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    • コメントありがとうございます。有松絞りの伝統を守りつつ変化を取り入れるお話、大変興味深いです。まさに「伝統とデジタルの融合」という今回のテーマに通じる視点ですね!

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