会長メッセージ2009.1

 

 

 昨年の後半に顕在化した米国発の金融危機は地球規模の金融津波となって世界経済に未曾有の影響を与えている。日本画像学会員が所属する組織もこの津波から逃れる事は出来ず、楽観できない情勢にあり会員各位が携わる研究、教育、開発、設計、生産、販売、サービスなどの業務分野においても多大な影響を受けているものと推察される。 この激動する国際経済情勢において我々の学会には何が期待されるのだろうか。現在の世界同時不況よる需要低下が投資抑制、生産縮小による急速な雇用減少を招いているが、学会がこの回復に貢献する事が可能なのか否か私見を述べてみたい。昨年8月発行のVol.47,No.4の本学会誌巻頭言にて、「活動の場としての学会の役割」を述べさせて頂いたがこれを更に発展させて、「新しい産学連携の場」としての当学会の役割を考えてみたい。

 

 企業側の現状から見ていくと1990年頃から自社内で一連の研究開発を行うリニアモデルが限界に達した。一連とは基礎研究から事業化までの研究開発プロセスを指している。90年代中盤以降から現在まで95%以上の企業が自前主義の限界を感じて、技術革新のスピードアップを図るため技術の先端化、融合化を志向してきた。デジタル技術をベースとする情報通信革命とソ連崩壊による大競争時代の到来が、古き良き時代の研究開発スキームであるリニアモデルの崩壊を加速したとも言える。

 

 米国MIT、スタンフォードなど大学発ベンチャーの成功事例に倣って、グローバル化の名の下で大学の研究成果を刈り取る仕組みの改革が行われ、米国化してきた。大学で生み出された発明は、旧来は研究者個人帰属として扱われたものが、独法化後は職務発明として学内審査され大学帰属としてそのTLOが交渉窓口となるケースも見られる。企業同士よりも煩雑な手続きで不実施補償、独占実施料などを請求するケースまで規定されている。平成20年版科学技術白書によると日本企業と大学の産学連携活動に含まれる共同研究数は2001年から5年でおよそ3倍に増加している。しかしながら現状では相応の雇用創出をするような新規事業が続々と生まれているようには見えない。。

 

 UCバークレーのチェスボロー教授によると20世紀の成功モデルであった、リニアモデルをクローズド・イノベーションと呼びこの限界を指摘し、これからの研究開発のパラダイムはオープン・イノベーションに向かって進むべきであると提唱している。組織内の技術ベースと同等に組織外の技術ベースをも必要に応じて自由自在に取り込むことを前提とする。アウトプットの形態も組織からスピンアウトしていくのも積極的に認めるもので、何でも有りの研究開発システムである。このような仕組みで成功を収めるには、広く高い技術見識とリーダーシップの存在が求められようが、日本国内においての成功事例は少ないようである。。

 

 ここで新しい産学連携の提案をしてみたい。 これまでの産学連携は産業界が抱える各種技術課題に対して大学の研究者との共同研究などの形で連携活動をしてきた。これまでの共同研究の成果が大規模の新規事業を生むのは稀であり、その殆どは技術改良、最適化などへの貢献であるように見える。。

 

 業界が概略のベクトルを合わせた上で、高い目標の革新技術の研究開発に取り組み従来技術を陳腐化させることで世界的規模の巨大な需要を作り出すことができるのではないかと考える。そのために最も重要なのは課題の設定であろう。米国のオバマ大統領はグリーン・エコノミーを雇用創出と景気浮揚の基本コンセプトに挙げているが、当学会の会員の所属する企業、大学、研究機関では課題のレベルや規模を慎重に選ぶ事が肝要であろう。飛び越える意欲と勇気が湧いてくるハードルの高さを設定し、事業としての実現時期を的確に設定する事が求められる。。

 

 大学、研究機関と企業との研究者達が相手の知に自分たちの知をぶつけ合い、そこから新しいものを生み出すようなリサーチ・コミュニティーとしての場を学会が誘導できないだろうか。大学サイドは基礎研究や基本原理部分を受け持ち、企業サイドはこれを応用して既存事業の革新或いは新規事業の創出を果たす。相互乗り入れが可能な場で協創的な知の交流が行われるのを期待したい。我々、日本画像学会が他の学会に先駆けて新しい産学連携の事例を創ることを期待して今年の所信とさせて頂きます。