情熱とサイエンスが切り拓いたインクジェット進化の系譜
~技術の黎明から成長、転機、そしてさらなる進化へ~
2026年4月23日(木)、第5回 imagingNEXTを“ふれあい貸し会議室 田町No.44”にて開催しました。今回は、Kz project代表、関西学院大学客員教授、元キヤノン・元日本画像学会理事の中島一浩氏を講師にお迎えし、「情熱とサイエンスが切り拓いたインクジェット進化の系譜 ~技術の黎明から成長、転機、そしてさらなる進化へ~」と題してご講演いただきました。今回は現地のみの開催でしたが、参加者は計33名(講師・委員含む)、その後の情報交換会にも26名の方々に参加いただきました。
講演では、中島氏の42年にわたる技術者人生を振り返りながら、インクジェット技術発展の歴史と、その裏側にあった挑戦や苦労について数々のエピソードを交えて紹介いただきました。
中島氏は長野県で育ち、天文学者を志して東北大学に進学しましたが、その後、生物物理学へと進路を変更し、色覚や視覚に関わるタンパク質研究を経験されました。1984年に大手複写機メーカーへ入社後、研究開発に対する考え方から、1年余りでキヤノンへ転職。熱転写技術に関わる研究開発を経て、1989年から黎明期のインクジェット開発に携わることとなりました。
講演では、1970年代後半にキヤノン、リコー、エプソンなどがほぼ同時期にインクジェット技術の研究開発を進めていたことや、HPとの6年間の共同開発によって両社の技術が実用化レベルに達することができた経緯など、業界草創期の歴史も紹介されました。また、技術開発と知的財産の関係についても触れられ、優れた技術を生み出すだけでなく、それを権利化し事業へ結び付けることの重要性が語られました。
技術面では、現在のキヤノン製プリントヘッドの基盤となっているFINE技術の開発や、インクカートリッジの基本構造の確立に貢献されたことが紹介されました。中島氏はFINE技術の基本特許の発明者の一人であり、この技術は後に全国発明表彰などの高い評価につながりました。FINE技術は、従来の課題であった吐出量のばらつきを抑えながら高密度化を実現する革新的な技術でしたが、開発当初は社内で十分な理解を得られず、製品化への道のりは平坦ではありませんでした。しかし1996年、エプソンのPM-700Cが市場で大きな成功を収めたことで業界環境が変化し、キヤノンでも新技術への期待が高まりました。これがFINE技術の事業化を後押しする転機となり、1999年の製品化へとつながったことが紹介されました。
また、中島氏は日本画像学会インクジェット技術部会の活動にも長年携わり、イメージングカフェの立ち上げや継続的な運営に深く関与されました。技術開発だけでなく、人と人をつなぎ、知識や経験を次世代へ伝えていく活動の重要性についても語られました。
最後に中島氏は、若手技術者に向けて「気づく力」「夢を描く力」「語る力」「へこたれない力」の4つの重要性を強調されました。また、座右の銘である「知好楽(論語)」を紹介し、技術開発を楽しむ姿勢こそが新たな挑戦や成長につながると述べられました。
長年にわたりインクジェット技術の進化を牽引してきた中島氏の経験と知見は、参加者に多くの示唆と刺激を与える貴重な機会となりました。